これは、昔から語りつがれた「酒呑み地蔵」のおはなしです。
昔、大蔵院という お寺があったところで、
こんな話が 伝わっています。
「おおさむこさむ、お酒を一ぱいくださいな」
雪のコンコン降る 寒い夕方のことです。
見知らぬ客が、
高平の造り酒屋にやってきました。
るす番をしていた 女の子が、
竹づつに酒をくんであげると、
客はうまそうに三ばいもおかわりをしたあげく、
お金を払わずに帰ってしまいました。
話におどろいた番頭さんが、
雪にのこった足あとをたどった足あとをたどってみると、
大蔵院のお地蔵さまの前で、ぷっつりと消えていました。
まさかと思った 番頭さんが
目をこらして見ると、気のせいか、
お地蔵さまのほっぺたが、
うっすらと赤らんでいます。
「酒呑み地蔵だ」
「酒地蔵さまじゃ」
うわさは、たちまち村中にひろがりました。
それからというもの,心のやさしい女の子は、
毎日、竹づつの酒を お地蔵さまにそなえて、
「なむなむ」 おがんだということです。
ところが、その子の計る 桶の酒は、
その後 くんでもくんでも、
いっこうにへらなかったといいます。