Magma 30周年祭レポート
2000年 5月12-13-14日 フランス、パリ、トリアノン by 登美隆之 あの伝説の10周年RETROSPECTIVEライヴから早20年、 進行は基本的に3日間とも同じもの。
ほぼ定刻に客席が暗くなると、スクリーンにMAGMAマークが映し出され、
アナウンスの後はビデオ放映となり、
MAGMAに関係したスタッフやメンバーが次々とMAGMAの想い出やクリスチャンへのメッセージを送る。
K.Blasquiz、F.Cahen、P.Gauthier、A.&Y.Guillard、D.Lookwood、B.Paganotti、J.Seffer、J.TOP、B.Widemann、S.Goubert等々、
主要なメンバーのほとんどが顔を出す、30分を超える長尺のものだった。
ビデオの最後はK.Blasquiz が再登場し、例のあの声で「Mekanik Destruktiw
Kommandoh」とアナウンスが入り
ドラムソロで演奏開始...なのだが、
それはクリスチャンではなくて、小学生くらいの女の子
(プログラムによればFabien Dechumont "un des jeunes cadets de la
Zeuhl")によるもの。
確かにMAGMAでのドラムソロと共通のモチーフを絡めつつ5分くらい演奏したところで、
ようやくクリスチャンが登場し、
シンバルワークでのデュオ演奏にちょこっとだけ移行して終了。
ようやく全メンバーが登場し、当初からアナウンスされていた通り
THEUSZ HAMTAAHK三部作の演奏が開始される。
第一部の"Thuesz Hamtaahk"では、現行正式メンバー8人による演奏。
女声がStella Vander & Isabelle Feuillebois、男声がAntoine Paganotti &
Jean-Christophe Gamet、
器楽陣はJames Mac Gaw(g), Emmanuel Borghi(p)、Philippe Bussonnet(b)、Christian
Vander(ds)である。
なお、この日Stellaは時折synth&2nd-pを、Antoineも時折2nd-pを担当していた。
"TH"に話しを戻すと30分強の進行はほぼ従来通りのものだったと思う。
第二部の"Wurdah Itah"はギターレスでGawはこの曲のみ2nd-pに回り、
女声にJulie Vander、男声にClaude Lammyが加わる10人。
"WI"に関しては正規盤でも海賊盤でも全曲を通したライヴテイクはリリースされていないと思うのだが、
少なくともスタジオ盤(トリスタンとイゾルテ)と比べるとかなり新パートが加わった内容で50分弱。
そして第三部の"MDK"はWIの編成からさらにトランペット×2、トロンボーン×2が追加された14人編成で、
進行も来日公演時からはエンディング・パートが追加された40分強のものだった。
アンコールはインターネット等での人気投票に基づき演奏される旨が示されていたが、
選ばれたのは21%を集めた"Hhai"で、これも14人の拡張メンバーでの演奏
(2位以下はKohntarkosz:19%、Zess:13%、De Futura:12%、Last Seven Minutes:6%、Retrovision:5%)。
1&2日目はこれで終了だったのだが、最終日はさらに未発表曲の1曲が追加されていた。
前回ライヴである2月のロンドン公演から演奏されたものらしい、本編とは毛色を異にするヴォーカル中心の小曲。
クリスチャンはドラムセットから離れてステージ中央に立ちリード的にヴォーカルを担当、
女声&男声陣のコーラスがバッキングの主役で、g/p/bはごくごく控えめなサポート。
盛り上がり過ぎた熱気を内面に深く掘り下げてくれるような静かなエンディングであった。
さて、初体験した98年7月の来日公演については38号でもレポートした通りだが、
クリスチャンの圧倒的な存在感とドラミング能力の凄まじさはともかくとして、
バンド全体として100%満足できる内容ではなかった。
その理由は、旧曲ばかり、かつこれまでLPやCDでさんざん聴いてきた演奏と比べて、
残念ながら上回る内容ではなかった、ということに尽きた。
管楽器やvlnの不在が物足りないと感じてしまう器楽陣、
そして何よりリード・ヴォーカルがK.Blasquizでないことの違和感...
これは「無い物ねだり」に過ぎないものの、どうしても乗り越えることもできないところ。
旧曲を演奏するのは早く止めて、新メンバーに合った新曲を早く聴かせてほしいと思ったものである。
その後、新曲シングルのリリース、大曲「白鳥とカラス」の完成間近のアナウンスと、
こちらの期待通りに事が進んでいただけに、今回の30周年記念ライヴが「三部作+Haai」となったことは、
来日公演の限界値が再提示されるものと予想し、正直なところ当初がっかりしていたのである。
ところが今回は、来日公演時同様の旧曲演奏だったにも関わらず、そんな不満は全く感じない。
生での体感としてだが、74〜75年の全盛期や10周年RETROSPECTIVEライヴをも上回った
「最高のMAGMA」だったのだ。
要因はいくつかある。まずはg/b/pの器楽陣の充実ぶり。
特にBussonnetは過去の名だたるベーシストと比較しても全く劣ることのない凄いプレイヤーになっている。
クリスチャンと完全に拮抗する切れ味の鋭さ、
そして上物楽器がゼロとなったWIで顕著な表現力の高さにも唸らされた。
g/pは楽曲的にあまり正面からスポットはあたらない役回りだが、
pはWIでの、gはMDK内のハイライト"Makanik Zain"でのソロパートのキレ具合は文句のないところ。
この成果が3人のリーダー・ユニットであるONE SHOTの次作にも生かされることを期待したい。
続く要素は、リード・ヴォーカル格のAntoine Paganotti(ご存じベルナールの息子)。
声質としては前任のB.Cardietと異なり、K.Blasquizにかなり近いものだったので、
三部作の歌唱には全く違和感がなかった。
また、コーラス陣の中ではJulie Vanderがかなりエキセントリックな声質を有していることも確認でき、
単なる人数の増加以上の厚みを加えてくれた。
特にWIは、他の曲以上にヴォーカルの比重が高くなっていたわけだが、
各人の声質の違いを生かして練り込まれたアンサンブルは、
このステージがこの曲初めての「決定版」的な演奏となったのではなかろうか。
この内容は70年代初期のオリジナル状態に、
80年代以降のOFFERINGやLES VOIX DE MAGMAの成果をもフィードバックしたものと言え、
ことに理想的な旧曲の再演形態だった。
MDKと"Haai"に入ったホーンセクションは、
これだけの器楽とコーラス陣の充実があれば、それほど必要なかったかも。
ただしそれほど前面に出ることなく部分的な参加に留まってくれたこともあって好サポートの範囲。
最後に、言うまでもないことだが、クリスチャンのドラミングは素晴らしいの一言である。
器楽陣の充実にも刺激を受け、来日公演と比べても一層テンションの高い演奏ではなかったか。
なおこのライヴは3日間を通して全面的にビデオ収録されていた。
ステージ上のハンディカメラは時々観客の邪魔になるほどで各人のソロ演奏に迫っていたし、
クリスチャンのドラミングを真横から捕らえる固定カメラもあり。
私が確認できただけでも常時5台は回っていたようである。
冒頭流れた旧メンバーのビデオメッセージと共に、
最高のMAGMAをより多くの人が体験しうるための早期ビデオ発売を切に望みたい。
−−以上−−
注記:本文はディスク&ライヴレビューミニコミ紙「ROTTERS’PAPER」45号(2000年夏発行予定)掲載原稿の草稿として書いたものです。ROTTERS’PAPERに関するお問い合わせは、tomi@sakura-catv.ne.jp 登美まで。