1061年3月20日

我が主ヘレナ様より、直に任務を授かる。
ドラッヘンブルクに救う数々の闇、それを一つ一つ浄化して行く。汚れてはいるが、大事な役目だと思う。ある程度の犠牲は出たが、アーのお導きにより多くの方の協力を得、事件は順調に解決することが出来た。しかし、それは新たな悲しみを生む結果となってしまった。
目の前で、それは起きてしまった。彼は、私は、誰……?
彼……後で院長に聞いたのだけれど、それはアーネストさんと言う方らしい……彼が口走った“ノーマ”という女性の名、それに呼応するように、まるで誰かに言わされる様に口走ってしまった「やっと会えたのに」などという、言葉。
“ノーマ”という女性についても、院長に伺ってみた。悲しそうな目で、「その様な娘は知らぬ」とだけ、ぽつりと仰った。

未だに、何が起こったのか分からない。どう考えても。
ただ、私の心の中にぽっかりと大きな穴が開き、その中を冷たい風が無慈悲に吹き抜けて行く。
あるいは、私が知らない私の宝箱を、私が知らないところで勝手にこじ開けられ、私が知らぬうちに踏みつけられ、粉々にされる。
アーネストさんと話した数少ない言葉を咀嚼してみる度、悲しさが込み上げて来て、涙が止まらない。何か、かけがえのないものを失った気がする。取り返しが付かない事をしてしまった様な気がする。それがどんなものなのかさえ、今は分からない。その手掛かりすら、失ってしまった。
悪魔に心臓を鷲掴みにされた様な、正体不明の苦しみ。
明日からの自分に、自信を失った。