1061年1月23日

ブリスランドに帰郷。女王陛下に報告中、魔神オクルスに捕えられる。

その一部始終を、陛下はご覧になっていた。もし、その事を、アーネストさんに知れたら……。魔神の逆鱗に触れたとき、彼がどうなってしまうか、考えたくは無いけれど、簡単に想像がついてしまう。
無駄な犠牲を増やさない為にも、私の後を追う事だけは止めて欲しい。犠牲になるとすれば、私だけでいい。
オクルスは、私を試すと言っていた。恐らく、マーテルが私に対して試練をお与えになろうしてらっしゃるのだろう。信念を持って、その時に臨みたい。

旅立ちの時にシリア院長から貰った花の種……「幸せの花」と言われている、フィリーネという、とても珍しい花らしい。こんな大事なものを、何故私が頂けたのか理解できない。しかし、それはシリア院長のお考えがあっての事だと思う。あの方は、私のことなど何もかもお見通しの様だから。
その種を握り締めてみる。少しだけ、勇気が沸いてくる気がした。
私は、剣や槍を振う力も無いし、炎や風を操る魔力も無い。でも……何か出来る気がする。ブリスランドに魔神が訪れ、良からぬ事が起きようとしてる今、私にでも出来る、何か。私だけに出来る、何か。
それを知る事が出来、行う事が出来れば、私の体は何時朽ちても構わない。天寿をまっとうするという事は、そういう事なのかも知れない。

この山で、きっと何かが起こる。確信に近い、予感がする。何が起こるか分からないけど、何が起きてもいい様に、覚悟をしておこうと思う。
アーよ、マーテルよ、私にお力を。

アーネストさん、もしも私が先立ち、貴方がこの日記をご覧になったのでしたら、迷惑ついでに、お頼みしたい事が、一つだけあります。
今、私が握り締めているこの種を埋めて下さい。もし、私の様な者にお墓を作って頂けるなら、そこに、私の生きてきた証として。
そして……この花を綺麗に咲かせて、貴方に伝えたい。私は、貴方に逢えて「幸せ」でした、と。