1060年8月9日

ミデレン村は、殉教の村だった。でも、その殉教は……後から分かった事だけど、酷いものだった。

この村の宿屋で、昨日偶然、ブリスランドの騎士ガーディウス様、それからアーネストさんと再会した。彼等に会うことが出来なかったら、私は今頃どうなっていたか分からない。
私の様な未熟者の祭司が全てを理解する事は到底出来ないけど……やはり、あのような行為は殉教ではないと思う。
私を心の闇から救って頂いた祭司アンドリュー様には大変申し訳ないけれど、この村の人々の考え方に対しては、疑問を覚えずには居られない。人間は、努力せずに得られるものはないという事を理解していただく事、そしてその考え方に基づき、人達を正しい方向へと導く事こそ、使徒マーテルの教えではないかと、私は思う。
アンドリュー様にもその様に教えを説いて頂いた筈なのに……彼に一体何が起きたのか、その疑問は結局解けなかった。せめて、マーテルの闇を解く力でと、最後の手段でアンドリュー様を傷つけてしまった。辛かったけど、きっと私が出来る最良の方法。安らかに眠って頂きたい。
この村で出会ったケイン君を見ると、尚更以前のアンドリュー様を思い出してしまう。彼を使徒マーテルの力で導く為に、未熟な私は何をしてあげられるのだろう。それを最も問いたい方は、今はもう……。

そう。私達マーテルの僕は、導かなければならない。その筈なのに……私は、再会したお二人の前で、失態を晒してしまった。
心優しいガーディウス様とアーネストさんは、そんな私を受け入れてくださった。そして理解する事が出来た。私もまた、一人の人間なのだと。祭司になる以前の私が存在するように。
頼りない私を見るに見かねたのか、アーネストさんは、私の旅の道連れを自ら買って出て下さった。私の様な者にとって、勿体無いお言葉。彼こそ、アーが私に使わした者ではないかとさえ思えてくる。

少し無口だけど、アーネストさんは私に優しくして下さる、とってもいい人。でも、彼は何らかの過去を引き摺っている様にも見える。彼が私を救って下さっている様に、お節介でなければ、私もまた彼を救いたい。お互い助け合う事こそ、人間を強くする最上の手段であると思うから。
今、貴方は、この宿屋の隣の部屋で、寝ているのでしょうか。寝ているとすれば、どの様な夢を見ているのでしょう。出来る事なら、その夢に出て訊いてみたい。
貴方の胸の奥底に、何が存在するのかを。