1060年7月13日

“殉教の村”は、“殺戮の村”だった。
マーテルに仕える者としては、神を冒涜するその行為に、憤りよりも自分の無力さを感じる。
人身御供となったアンドリューさんや、それまでに犠牲となった多くの聖職者の方々は、果たして本望だったのだろうか。私は、そうは思いたくない。
ただ単に人の命を救う行為は、その人の為にならない。人の心を救う事こそ、その人の為になるのではないだろうか。
尤も、私にそんな考えが生まれたのも、この村で出逢ったエーリアルさんとヘンゼルさんという、二人の聖痕者の方々が私を諭して下さったから。今回の事件も、未熟な私にそれを考えさせる為のマーテルの教えであったのだと思う。
しかし、事件の真相は結局分からずじまいだった。死者の魂にお聞きしようと思ったけど、彼等の死を冒涜する行為になるのではと思い、自重した。この多くの魂には、安らかに眠って頂きたいと願う。
私の命は、誰の為に捧げられるべきなのだろうか。ふと、そんな事を考えてしまった事件だった。