いつかどこかの空の下で
〜卯月 第三週目〜
あたしは、『声』のするほうを、注意深く見ていた。
万が一のために、いつでも逃げ出せるようにはしてあった。
じっと見る…やはり何もいない。
『声』がだんだん近づいて来る。
『声』が大きくなるにつれて、その『声』が多数の音源を持っている事がわかる気がした。声の高さとかがまちまち…つまり、もし誰かがあたしに話し掛けてるとしたら、それは複数人であるという事だと。
そして、よく耳を澄ませば『声』以外の音も聞こえるようになってきた。
金属がこすれるような音や、足音。布がこすれるような音も聞こえ始めて、そして…
あたしの目の前にファンタジーのRPGで出て来るような風貌の男女が4人。忽然とあらわれた。
先頭を歩いていた杖を持ってゆったりとした服を着た男が、聞きなれない言葉と同時に杖を少し動かす。杖の先が少し光り、その光があたしを包んだ。
「な、なに?」
光は淡く青く輝くと、あたしの中へと入っていった。
「これで…言葉が通じますよね?」
杖の男が話し掛けて来る。あたしはわけもわからないまま、コクコクと頷いた。そう、相手の発している言葉が分かるようになっていたからだ。
「あぁ、良かった。皆さん、大丈夫みたいですよ。」
「そうみたいだな」
1歩下がっていた金属でできた鎧を着た男(もっとも、お金持ちの家に飾ってあるような奇麗な物でも無かったし、体全体を覆ってるわけでもなく、胴体しか覆ってなかったが)が、杖の男の隣に立つ。
よく見れば、背中に大きな剣を背負っていた。
「…と、古代時代の機工士の嬢ちゃん。悪いが少し付き合って貰えるかな。こっちとしちゃ、早くこの地域から出たいんでね」
あたしは、頷くしかできなかった。
数日後
あたしはシンシュウという町にいた。四方が山に囲まれており、攻められにくい地形らしい。ちなみに、古代時代の地名から取ったということなので、あたしの生きていた時代の長野県のあたりらしいということも判った。
……そう。あたしの生きていた時代のね。
とりあえず、訳もわからないまま付いてきている道中に、大体の事情は聞いた。
まず、ここはあたしの生きていた時代の1万年くらい後らしい。ちなみに、あたしたち人間は、しばらくして『古代魔力の暴走』とやらによって滅びたらしい。
多分、核爆弾か何かだろうと想像が付いた。
何故かって?
初めあたしに何かしてきた杖の男が言うには、さっきの荒野には古代魔力がまだずいぶんと余っており、あまり近くに長くいるのは危険らしい。そして、古代魔力は古代語(つまり、あたしの時代の言葉ね)で、『ホウシャノウ』と言うらしい。
なんとなく不思議な感じがした。
……そういえば、4人組みの名前も聞いた。
鎧に剣の男はヤナギ。杖の男はライ。そしてあと2人。やたらと軽装で、胸の所に何かの革でできた胸当てを付けて、頭に布を巻いている女(と、いうよりは少女かな)はカレン。そして鎖でできた服(あれも鎧なのだろうか)を着て、大きなハンマーを背負っているのがジードラング。と、それぞれ名乗っていた。
……と、とにかく、現時点で判っている事はそれくらい。
あたしが生きていた時代から1万年後ってことと、人間は滅びているということ。
じゃあ、彼らは何なのか? と聞いたけど、それに関する答えは後々話すと言われてしまったし、あたしがここにいる訳とかもその時、一緒に答えると言っていた。
だからあたしには……黙ってついていくしか無かった。
そして、ここ、シンシュウという町になる。
決して裕福な町には見えない……が、それなりに活気のある町だった。まず目に付くのが、砦というか、お城というか……と、とにかく、町の真ん中に石造りの立派な建物があった。他の建物はほとんどが木でできている。
ちなみに、町の外壁は石垣ができており、その周りに掘まである。
(・・・何か戦争でもやってるのかな?)
人間の歴史は戦争が作っている…と、どこぞの教師が言っていた気がする。あながち間違いでは無いかもしれない。
話を元に戻そう。…実はもう一つ。この町に入って目に付くものがあった。それは、住民について。この町の住民のほとんどが、何かしら、どこかが変だった。いや、皆、見た目は人間だった。そう、大雑把な見た目は。
良く見れば、普通の人間なのにネコの耳が頭からはえていたり、腕が虎のように黒と黄色のシマシマの模様が入っていたりしていたのだ。
「あ、あのさ、カレン。……こ、これは?」
「ユーキさん。……とりあえず、太守に会ってからにしてもらえますか?」
申しわけなさそうにカレンが少し頭を下げる。今までも何か確信を付いた所を質問すると、ずっとこうだった。
(まぁ、しょうがないか。あっちにはあっちなりの事情があるだろうし)
町の大通りを歩いていく。通行人はそれなりに多い。だが、ヤナギが先頭を切って歩いていくと、道は自然と開けた。中には、何かしらの声援を送って来る人や、拍手が湧き起こっていたりする。
(なんなのさ…)
あたしにはまだ、訳がわからなかった。
太守の館(砦でも、城でも無かったみたいだ)に入り、応接間のような所でしばらく待つと、やがて太守と呼ばれているのであろう男が出てきた。その男は、見た目は人間だった。
「よくぞ来てくださいました。古代時代の機工士様」
太守が頭を下げる。それにつられて、奥で待機していた執事や小間使いも頭を下げる。
「あ、あの〜……」
「太守。まだ私達は機工士様に、詳しい事を話してません。そこらから説明して貰えますでしょうか」
ライがあらたまった口調で言う。それを聞いて太守が頭を上げた。
「おぉ。そうであったか」
あたしは大事な客らしく、応接間に入るなり、お茶とソファを勧められた。他の4人は立っていた。太守はあたしの向かいに座ると、ヤナギ達4人にも適当に座るように指示した。
各人が座り、落ち着いたのを見計らって、太守が話を始めた。
まず、古代の出来事。
どうやら、古代人(あたしから見れば、現代人かな)は、核戦争で滅びてしまったらしい。
だけど、少数の人間と動物は生き残った。そして、生き続けた。
月日が流れ、動物の中で古代魔力『ホウシャノウ』の影響か、動物の中でも妙な進化をする動物が現れてきた。それが、さきほど町で見た半獣半人『ライカンスロープ』らしい。
そして、この時代。
機械は無いが、その代わり、魔法が発達している。魔法も、やはりホウシャノウの影響なのか、人間やライカンスロープの中に普通は、30%しか使われていない脳をそれ以上に使える人達が現れたらしい。それを、この時代の人は魔法と呼んでいた(ライもその中の一人らしい)。
そして……今、この国は二つに分かれての戦争中らしい。
片方はライカンスロープと共に行きていこうとする集団。そしてもう片方は、完全な人間だけでの古代時代のような世界を復活させようという集団。
こちらは前者の拠点らしい。
「……大体判った。けど…なんであたしな訳? あたしは、一体、何をすればいいわけ?」
「それについてなのだが……」
太守が何かを言いかけて、そして、口を閉じた。
見れば、周りも皆、目を逸らしている。
「…何?」
誰も答えようとはしなかった。気まずい沈黙だけが流れる。
「ねぇ……何なの?」
目線を合わせない……。
やがて、開き直ったかのようにヤナギがこちらを向いて、肩を掴んだ。
「…隠しててもしょうがねぇ。ずばっと言うぜ。ユーキ、お前は……この時代はすでに死んでいる」
「……え?」
そりゃこの時代には、普通なら死んでいるだろうね。でもそれが……?
「いいか。お前は、この時代に召喚された。だが、召喚された時点で、お前はお前では無くなっているんだ」
……いまいち上手く理解できない。えっと……?
「……分かってないようだな。つまり、お前は、お前の記憶にあるお前自身…御神楽 優希って言ったっけな。そいつのコピーな訳だ。……判ったか?」
「どう…して?」
「どうしてもこうしても、そういうもんなんだ。召喚ってのは。そして、この時代には『御神楽 優希』は死んでいる。だけど、同じ記憶を持ったお前、ユーキは生きている。…そこまで判ったな」
無言でうなづく。
「そして、だ。ユーキ…お前を召喚した訳というのはだな。お前にこの国と一緒に相手国と戦って欲しいんだ。お前のその知識を生かしてな」
「ち…しき?」
あたしはそこまで頭よくない。それどころか、実技以外は大した点は取っていないし……
「そうだ。機工士……なんだろ?」
ヤナギがまっすぐあたしの方を見て聞いて来る。
「……機工士って?」
「古代の機械を直したり、作れたりする人の事ですよ」
ライが隣から口を挟む。機械を直したり……作れたり?
そりゃあ、ある程度ならどうにかなるかもしれないけど……古代の機械かぁ。でも……
「具体的には、何をすればいいの?」
とりあえず聞いてみる。
「それは……いかに機工士殿といえど、協力すると約束してもらってからでないとさすがには」
太守は口をつぐんだ。よっぽど重要な事らしい。
多少の機械なら直す自信はある。ただ……いきなり戦車作れとか言われても、どうしようも無いし。ただ、ここで協力しないと、行く場所が……。
あたしは……
1.「どこまでできるかわかりませんが、やってみましょう」(有効投票 0票)
2.(とりあえず、向こうの集団の言い分も聞いてみないと)「少しだけ、待ってもらえますか?」(有効投票 4票)
3.(こんな一方的な集団には付き合いたくない)「お断りします」(有効投票 1票)